マーベルヒーローが集結する「アベンジャーズ」の大ヒット以降、ヒーローものやクロスオーバーものが増え、劇場に行くとなにかしらのヒーロー映画が必ず上映されているような昨今。
正義のヒーロー映画が浸透すると今度は、ヒーローが超能力を悪用していたらという内容の「ザ・ボーイズ」やアメコミのキャラを借りた社会派作品「ジョーカー」など、ちょっとヒネったヒーロー作品が出てきました。
今回紹介する「マーベルズ」は、マーベルヒーローたちが活躍する世界のお話なのですが、主人公はスパイダーマンでもアイアンマンでもなく、僕らと同じ一般人です。
よくあるヒーロー作品では能力を得たヒーローの葛藤や、ヴィランがなぜ悪行にでるのかなどのドラマが描かれ、見ているこちらは胸を打たるのですが、
その世界に生きる一般人は、なんのことかサッパリですよね。わけもわからず戦いに巻き込まれる姿はまさに災害の被災者。パニックに陥った時、人々はどのような行動にでるのでしょうか。
マーベルズ(※ネタバレあり)
作:カート・ビュシーク
画:アレックス・ロス
訳:秋友克也
出版:ShoPro Books
発売:2013年07月24日
あらすじと感想
天才科学者ホートンは生命組織や人間心理を研究する中で、ついに生命体を造ることに成功したのですが、それは酸素を流し込むと体が発火してしまう火だるま人間でした。
火だるま人間を世間に発表すると、その異形の生物に人々は怯え、ホートンを責めました。
そして火だるま人間は酸素がない状態でカプセルに入れられ、地面に埋めて廃棄されました。
しかし地面の圧に耐えられなかったカプセルにひびが入り、火だるま人間は逃げ出します。
その姿は街の人々に目撃されるのですが、あまりに非現実的な出来事に主人公・フィルは火だるま人間のことを“人”ではなく“物”だと認識します。
この作品は得体の知れない超能力者たちに一般の人々が怯え、利用し、助けを求め、罵倒する、人種差別の話です。
フィルはフリーのカメラマンです。新聞記事に使えそうな写真を売って暮らしています。
火だるま人間・ヒューマントーチが逃げ出したあと、また別の超能力者サブマリナーという魚人が現れ、女性を連れ去った(と思われる)事件が発生しました。
サブマリナーを止めるために警察署長はヒューマントーチに依頼し、2人の超能力者バトルが勃発しますが、戦う理由も何もかもがわからない第三者には流血と破壊と混乱だけが映りました。
2人の戦いを追っていたカメラマンのフィルは、激しい戦いで飛び散った瓦礫が顔面に直撃し、片眼が見えなくなります。
その後、超人兵士計画によりパワーを得たキャプテンアメリカやアーマーをまとったアイアンマンなどが誕生し悪者と戦い、やがて彼らのような超人的な存在は人々にとって自分たちを救ってくれるヒーローという認識になりました。
そんな中、突然変異で超能力が身についてしまった人々は“ミュータント”と呼ばれ、自分たちにはない気味の悪い能力を持ったミュータント集団・X-MENは害悪な物とされ、ひどい差別を受けています。
超能力で人々を助けるキャプテンアメリカは希望をもたらす“者”ですが、同じ様に超能力を持っていてもミュータントは汚らわしい“物”とされています……現実世界で肌や目の色、国柄で人を判断・差別してしまう人間がいるように。
ある日、フィルの子どもたちが野良犬を拾うかのようにミュータントの女の子を拾い隠れて世話をしていたことが発覚します。
それを知ったフィルがまず思ったことは「これに毒はないのか?伝染病はないのか?」。パニックに陥ると人間の本性がでますよね。
現実世界でも今、世界中に拡がって大問題になっている新コロナウイルスに怯えた人々がとった行動が毎日の様に報道されていますが、自分だけが生き残ろうと必死に他人の足を引っ張るその姿はとても醜いです。
とまあこんな感じに話が進み、災害が起きたら助けを待ち、災害が過ぎたら問題点だけを指摘して罵倒し、何か起きたらまた助けを求める人々の様子が描かれます。
エンターテインメントとして映画やコミックで人々を楽しませる時、ヒーローのアクションをダイナミックに見せるためには
どうしても周辺の物を破壊して飛び散らせたりしないといけない(ウルトラマンが戦うとビルがぶっ壊れたり)といった演出を、
現実に起きたら大惨事だよねっていう“もしも”を描き、そして人間の心の弱さを見せつけられ思わず姿勢を正してしまう作品でした。
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お題「#おうち時間」