第92回アカデミー賞・衣装デザイン賞を受賞した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。
原作の『若草物語』は、19世紀後半を生きる四姉妹のやかましい少女たちの様々な愛の形を描いたルイーザ・メイ・オルコット氏の自伝的物語です。
これまでに何度も映画化されたことがあるのですが今回の2020年版では四姉妹のやかましい少女時代が終わる『続 若草物語』も合わせることで、
成長した彼女たちは結婚で愛を取るのかお金を取るか、そもそも結婚が全ての女性にとって幸せなことなのか?という問いかけを現代にしています。
『若草物語』作者ルイーザ・メイ・オルコット氏は『続 若草物語』を執筆するにあたって「主人公を結婚させてほしい」というファンの要望に応え、
生涯独身だった自身の意図とは違うけど商業的な成功を選んだため自伝的物語の主人公を結婚させるという選択をしたのですが、
そんな選択をさせた男性社会を2020年映画版では痛烈に皮肉った改変をしていて素晴らしかったです。
作者の意図を汲み取り、現代版アップデートされた若草物語を紹介します。
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(※ネタバレあり)
監督:グレタ・ガーウィグ
脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』
出演: シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン他
あらすじと感想
『若草物語』はマーチ家の次女・ジョーが自身と姉妹の少女時代を綴った自伝的物語。
ピューリタン(キリスト教)であるマーチ家の人々はめちゃくちゃ善人で、
飢えた人には食べようとしていたご飯を差し上げ、家族が必要としていたらジョーは自慢の長い髪の毛を売ってお金にする。
『のび太の結婚前夜』に「あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとって大事なことなんだからね」と言うセリフがありますが、マーチ家は全員そんな感じの人々です。
2020年版映画は成長したジョーが作家を目指し、街で家庭教師のバイトをしながら奮闘しているところから始まります。
女性だからと相手にされないことがないように「友人に頼まれて持ってきました」といって自身が書いた作品を出版社に持ち込むと、
相場以下でしたが買ってもらうことができましたが、次の作品を書くときは「女性を主人公にするのなら結末は結婚か死ぬかにしろ」とわけのわからないことをいう編集者。
それが大衆の求める物語なんだそうです。
ジョーは家族のためにも女性作家としてお金を稼ぎたい。自分を殺してまで大衆受けする作品を書いた方が良いのでしょうか?
そんな時に下宿で出会ったベア教授に、ジョーは自身の作品を読んでもらうと批判されてしまいます。
自信を失くした時に妹・ベスの病気が悪化したと知り、実家に帰ることにしました。
他の姉妹はというと、長女・メグはお金より愛を選び貧乏人と結婚するも何年かすると裕福な暮らしを望むようになり(僕も人ごとじゃない……)、
四女・エイミーはマーチおばさんとヨーロッパ旅行に同行する中でおばさんから「金持ちと結婚することが女性の幸せ」だと洗脳され、
好きでもない男と婚約しそうになっていたところに実家の隣人・ローリーとバッタリ再開します(彼のことが好きで好きでたまらない感じがとてもキュートでした)。
隣人・ローリーは四姉妹の少女時代を共に過ごした幼馴染で、中でも次女・ジョーととても仲が良く、
じゃれあってるシーンが何度もあって(だいたいローリーがジョーにど突かれてる)微笑ましいのですが、プロポーズは振られてしまいます。
そんな色々あって楽しかった少女時代を、ジョーが現実と重ねながら振り返るスタイルの作品です。
終盤、作家の夢を諦めかけたジョーが「あの時ローリーからのプロポーズを受けていれば……」と後悔する改変シーンがあって、
原作に思い入れのあるファンからすると、ジョーがローリーに恋愛感情を抱くような改変はしてほしくなかったという意見もあるみたいですね。
でもさ、生活がうまくいかない時に「あの時こうしていれば……」って過去の選択を悔やんだり考えすぎて芯がブレちゃうこと誰にだってあるでしょ。
「好意を抱いてくれていた職場の年上女性の誘いを当日面倒くさくなってドタキャンしていなければ……」とか「私のことどう思ってるの?と聞いてきたあの子と面倒くさがらずに付き合っていれば……」とか。
でも愛情がなかったから上手くいかなかったわけで(自分の話です)、ジョーも母親から「それは愛情じゃない」と警告されているじゃん(映画の話です)。これはこれで良かったと思うけどなあ。
もう一つ良かったところ。
自身の少女時代を物語にしたジョーですが編集者から「女性が主人公ならラストは結婚か死か」
大衆が読みたいのはそういった結末なんだと圧をかけられ、商業的な成功を望んだジョーは受け入れ結末を書き換えます。
するとそんな大衆をバカにした安っぽいプロポーズシーンがサクッと追加され、製本が始まり”作り物の話”ということを強調。
自身の意図と違う結末を書かなければいけなかった原作者ルイーザ・メイ・オルコット氏の真意を映画的なやり方で表現した改変が、
男性社会から変わりつつある今の時代に新しい作品として撮り直す意義があると思うしとても良かったです。
第92回アカデミー賞・衣装デザイン賞を受賞した19世紀の衣装や風景も美しくて素敵でした。オススメです。